熊田梨恵の独り言

救命士が臍帯結紮・切断研修~妊婦搬送に対応

学会当日に行われた東京消防庁のDMATデモンストレーション

学会当日に行われた東京消防庁のDMATデモンストレーション

 北海道北見地区の救急救命士は、分娩介助が必要な妊婦の搬送依頼に応えるため、臍帯の結紮と切断の研修を受けています。12,13両日に都内で開かれた臨床救急医学会学術集会で研修内容などが発表されました。素晴らしい取り組みである一方で、彼らは一体どこまで学ばなければならないんだろう、とも考えさせられました。

北見地区消防組合消防本部の発表によると、北見市の2008年から5年間の救急件数は約13万6000件。「妊娠、分娩及び産褥」に関する要請は281件。このうち、現場や救急車内で分娩に至ったのは39件ありました。

報告された救急車内での出産ケース

28歳の経産婦が陣痛を訴えて救急要請。2階の居間で側臥位で陣痛を訴え興奮状態。「腹部全体が痛い」、「何か出たかもしれない」と訴える。性器部を観察するとこぶし大の胎胞が脱出。破水はない。陣痛2分おき。早期の出産になると判断した救急隊は、妊婦を搬送。妊婦が車内で「何か多量に出た」と、激痛を訴える。外性器から胎児の頭部が出ていた。救急隊が介助して出産。

同消防本部は、産婦人科関連の搬送件数が年々増えていることから、産科救急に安全・迅速に対応する知識と技術の研修が必要と考えました。08年から日本赤十字北海道看護大の協力を得て、全ての救命士が研修を受けています。10年からは助産師の指導を受け、実際の臍帯の結紮と切断も学んでいます。

研修後にアンケートを取ると、実際に臍帯の結紮・切断を行った人は1%。研修から1年経つと、知識は覚えているものの、現場活動に「不安がある」と答えた人は55%。研修の継続を望む人は97%とほとんどでした。

 そこまでの取り組みを行っているとは、すごいなと感心して聞いていました。一方で、彼らはどこまで知識や技術を習得していけばいいのだろう? とも。救急要請をした患者に一番最初に接するのは救急隊員、救急救命士です。それこそ妊婦もいれば、子ども、高齢者、精神疾患患者など、実に様々な患者に接 します。もちろん彼らの知識や技術が向上することは素晴らしいことですし、望まれることではありますが、キリがないんじゃないかなあとも思うのです。彼らが学んでいくには、教える人、時間が必要になり、お金もかかります。ボランティアで向上し続けろというのは、違和感があります。では税金を使うなら、国民 がどれぐらい負担するのかという話になります。一体どこまでの医療の質を求めていくか、やはり考えないといけないと思うのです。

患者を除染、搬送するデモンストレーション

そもそも救急隊が行う基本的な手技の質が低下していると いう話もあります。これには、消防機関の意識や、救命士や救急隊の教育に熱心な救急医がいるか否かなど、かなり地域差があると言われます。まずはこうした質のバラつきを改善し、担保する制度の充実が必要ではないかと思います。処置範囲拡大の議論が進む陰で、地域格差が大きくなりそうな気がします。

個人的備忘録

  • 搬送時間短縮についての問題点
    →処置してから運ぶか、とにかく急いで搬送するか。処置したら、確実に搬送時間がかかる。

  • 救命士議論のトレンド
    ①職域拡大
    →全国の救急救命士約4万人。うち2万人が自治体消防の救命士。5000人は病院など他の場。15000人が資格を活用していない。しかし今後も数は増えるが、どうする?
    ②高度化
    →処置範囲拡大の議論。どこまでやるんだ。業務拡大の一方で、個別に習得する知識と技術が増えることで、他がおろそかになる懸念。訴訟リスクも抱えることになる。
    ③再教育
    →何度か改正されているのだが。座学が多い。内容古い。研修に行く時間がない。救命士が救命士を教育できるように。基本的な手技・技術・知識の充実を。

  • トリアージ
    119番通報時、現場、院内。それぞれの場で。

  • メディカルコントロール協議会
    消防法改正の中で、搬送受け入れルールをつくる組織として想定されているが、はっきりと法的に位置づけられているわけではないため、弱い。地域によりアクティビティーに差がある。

  • 訴訟リスク
    不搬送の場合の対応。