お知らせ熊田梨恵の独り言

新著「胃ろうとシュークリーム~本当に大事なのは何ですか?」来月発売!!

 新著「胃ろうとシュークリーム~本当に大事なのは何ですか?」(ロハスメディア社)が来月末に発売されることになりました!

テーマは高齢者の延命医療です。一時期バッシング報道も増えた「胃ろう」ですが、そもそもなぜ胃ろうが大きく取りざたされたのか。背景にあるのは医療界の構造問題でした。私は取材を進める中で、胃ろうは社会的入院と同じ構造問題を持つことに気付きました。高度に発達した医療技術と、少子高齢化の進む現代の日本社会が重なったところに、問題は生まれます。現代社会の抱える問題の在り様を、患者家族、医療者、介護者、研究者へのインタビューで明らかにしていきます。

お腹の上から胃に向かって穴を開けて栄養剤を注入する「胃ろう」が近年注目されました。胃ろうは飲み込む機能の低下した人が効率よく栄養を摂取するための手段。その栄養療法が本人の生活の質を向上させるべく適切に行われているかどうかが大切です。しかし、胃ろうが望まない延命医療になっているという偏ったバッシング報道も多く、「胃ろう自体が良くない」という間違った理解も一部で生まれているようです。「胃ろうは嫌だけど経鼻経管(鼻からチューブを通して栄養を注入する方法)」と言う患者がいたり、胃ろうのイメージが悪くなったために造設を断る医療機関が出てきたりもしているようです。胃ろうは、患者の状態に合わせて使えば、とても有効な栄養摂取の手段なのに、これでは意味がありません。

 問題は、なぜ「延命医療になっている」と言われるような、適切でない胃ろうが増えたのか、という背景の方でしょう。その構造を解き明かさないまま胃ろうそのものをバッ シングしても、問題の本質が伝わりません。誤解を生むだけです。一時期、「救急たらいまわし」などと言われ、救急医療機関の受け入れ不能が大きく報道されましたが、その時に医療機関をバッシングしても何の意味もなかったどころか、身を粉にして働く医療者のやる気を萎えさせてしまい、医療者と市民の対立が生 まれました。そうではなく、なぜその問題が起きているかに目を向けて、問題の本質を見ることです。医療にまつわる「ヒト・モノ・カネ」がどうなっているのか。多くはこれで解き明かせると思いますが、医療制度や医療費の仕組みは複雑で分かりにくいです。マスメディアのキャパシティではそこまで報じるのは難しいでしょう。そしてこういう問題には、概して悪者はいません。それぞれなんらかの理由があって、それぞれの行動をしています。悪者のいない話は分かりにくいので、やはりマスメディアには向きません。

 新著では、患者さんの家族や様々な立場の医療者、介護者、研究者へのインタビューを基に、「なぜ胃ろうが望まない延命になっているのか」を解きほぐしています。

 前作「救児の人々~医療にどこまで求めますか」をお読みくださった方々は、全く同じ問題構造があることに気付かれると思います。少子高齢化の進む日本の現代社会と、高度に発達した医学や医療技術。私たちはその医療技術の恩恵を受けて暮らしています。一方で、その医療に翻弄され、福祉サービスの貧困など予想もしなかった負担に疲れ果てている家族もいます。そして医療費は、私たちの税金と保険料から成ります。医療費や医療者が無尽蔵なら、助かる命はどんどん助かってほしいと思いますが、財政難の日本という全体のバランスの中で見た時にどうなのか。医療だけでなく、その後の福祉や教育、社会環境はどうなのか。またその医療を受ける患者個人の幸福に合った適切な医療になっているのか。たくさんの論点があると思います。「救児の人々」の新生児医療、今回の高齢者医療、そして他の分野、また違う業界でも似た構造があると感じています。

 家族や医療者、介護者、研究者の言葉は深いです。彼らの言葉の中に、考えるヒントがたくさんあります。

少しだけ、プロローグを紹介します。

「胃ろうとシュークリーム~本当に大事なのは何ですか?」プロローグ

「お義母さん、来たよ」
返事はない。6畳よりやや狭い個室の奥のベッドに、手足を亀のように縮めた老女が寝ていた。部屋の中には、衣類の整理ダンスが一つあり、ベッドサイドに引き出しの付いたテーブルがあるだけ。生活感がまるでない。
大阪府の郊外にある有料老人ホーム。3年前にできたばかりで、まだ綺麗だ。
老女は、アルツハイマー型認知症で寝たきりの要介護5。何度か脳梗塞も起こしており、四肢関節の拘縮が強い。話しかけても若干の反応がある程度。
施設のお誕生日会の時や七夕行事の時に撮られたのだろう写真が整理ダンスの上に飾られているが、写真の中の老女の目はカメラに向いていない。隣に古い写真が立てかけられていて、その中で着物を着て腰かける若い女性が寝ている老女であることは、顔の骨格と目の周りの様子から分かった。隣に立つ凛々しい顔立ちの男性は夫だろうか。2人とも意志の強そうな表情が印象的だった。
しばらくすると、看護師がビニールパックやチューブなどを手に部屋に入って来た。
「秋元さん、失礼しますね。お食事の準備しますので」と老女に近づき、ベッドの背を起こした。
プラスチックのボトルの先にチューブを繋ぎ、ビニールパックを開けて流動食を入れ、チューブを調整してから老女のパジャマの裾を上げる。老女のお腹には、プラスチックのボタンのようなものがついており、看護師はチューブをボタンの上の部分に差し込む。胃ろうだ。間もなくボトルの中の栄養剤がゆっくりとチューブを通ってボタンの部分を通過し、胃に入り込む。
「はい、ではまた後で来ます」と言うと、看護師は足早に部屋を出た。秋元清美さん(仮名、58歳)は、老女の顔を覗き込み苦笑いしてつぶやいた。
「お義母さんの、お食事」
老女は、うっすら目を開けたまま、宙を見つめていた。

介護が楽だと言われて

大阪府に住む秋元さんは、義母の政子さん(88)の暮らす有料老人ホームに、ほぼ1日おきに通っている。
政子さんを自宅で4年間介護し、心身ともに疲れ果て鬱病になってしまった。夫とも不仲になった。空いていた有料老人ホームは思った以上に高額の入居費用が必要だったが、在宅介護を続けるのは困難と判断し、ローンを組んで入居させたのだという。政子さんが入居してから1年間、清美さんはほぼ1日おきに施設に通い、自らも精神科病院への通院を続けている。
「最初に説明を聞いた時に、胃ろうの方が介護は楽やと言われました。夫が家に帰ってもらいたがってたんで、それやったらなるべく手間のかからん方が、私たちも介護が続くと思いました」と、秋元さんは政子さんに胃ろうを着けた時のことを話した。「とっさにお義姉さんたちの顔も浮かんで、『何しとったんや』とものすごい責められるんちゃうか、とか。私は嫁やからね、お義姉さんたちに『お母さんを見殺しにして』とか言われるのだけはほんま勘弁、というのもありますよね。普段介護してるのは私でも、そういう時だけ、あの人ら出てきて」
秋元さんは、ぽつりぽつりと話し続ける。
「主人なんか、仕事を理由にして全然お義母さんに会いに来ようともしない。全部私にだけ押し付けて……。もしかしたら、あのお母さんのあの姿を、見たくないのかもしれませんよね。お母さんのことが大好きで、マザコンみたいな人やったのに、だからなおさら見たくないんかなあ……。あの時(胃ろうを着けなければ生きられないという説明を受けた時)、『そんなん絶対あかん!』って顔真っ赤で、ものすごい剣幕やったんですよ。でも、だからこそ、自分たちで選んだことが違ってたかもしれないなんて、思いたくないのかも……」
2時間ほどで政子さんの栄養剤の注入が終わると、また看護師が来て、手際よく片付けて行った。注入が始まっても終わっても、政子さんの表情に変化はない。秋元さんも特に部屋で何をするわけでもない。普段は、読書や雑誌のパズルをして過ごしているという。他の入居者は部屋を出て団らんしたりもしていたが、もちろんそこに政子さんは加わらない。スタッフが車いすに政子さんを載せて部屋から出たとしても、スタッフには別の仕事があるので、一人で車いすに乗って窓に向かわせられていることが多いそうだ。
しばらくしてから秋元さんは、帰途についた。秋元さん自身は、昼食をほとんど取らないらしい。「音もせんとぽたぽた落ちる流動食を見ていたら、自分の胸まで膨れた感じ」になるという。
帰宅してから夫の食事を用意する。息子が東京で働いていて、月に1度ほど秋元さんの方から携帯電話に連絡するが、忙しいのかすぐに切られてしまう。政子さんのことが話題になることは、ほとんどないという。
施設から駅までの道で秋元さんは言った。
「家で介護することがなくなってから、余計に落ち込むことが増えたような気もするんですわ。寂しいとか、思う時間も増えましたから。熊田さん、お義母さん見て、どない思われました? ちっとも幸せに見えへんでしょ、正直……。幸せなんやって思い込もうとした時期もありましたけどね、だってそうでも思わんと耐えられへんからねえ。でもそれも、なんかもうほんま疲れて。なんでこうなったんかな……。私らが、悪かったんでしょうか?」

そもそも、タイトルにある「シュークリームってなんだ?」と思われている方もいると思いますが、読んで頂けると分かります!

ぜひ、お手に取って読んでいただけると嬉しいです!!

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