インタビュー

「女性手帳」の真意は女性の自律支援~森まさこ少子化対策担当大臣インタビュー

森まさこ少子化対策担当大臣

立ち消えになった「女性手帳」の騒動について森まさこ少子化対策担当大臣は 『本当に伝えたかったのは、「産む・産まない」の選択は個人の自由であり、決して押し付けるものではないということ。自分の体を知った上で、女性たちが選択できるよう情報提供しますということ。情報提供対象は、男性・女性、両方です』と語ります。考えていた”手帳”は、結婚・妊娠支援の手段の一つだったとして、今後も女性たちが自由に選択できる社会を目指したいと話しました。

取材背景

筆者は、10日発売の月刊誌「文藝春秋」に不妊治療に関する記事を書いています。取材を進める中、女性の晩婚化と出産の高齢化が進む背景に、この社会で産み育てながら働くことの困難さがあることが見えてきました。女性たちからは、「産みたいけど、キャリアが絶たれるのが怖いから、出産できない」という声が上がります。安倍晋三首相の打ち出した「3年間抱っこし放題」育休政策に上がる批判、消えた”女性手帳”など、気になる話題もあります。この現状を少子化対策担当大臣がどう捉え、どんな対策を考えているかを聞きました。雑誌本文中の森大臣のコメントは数行なので、こちらに全文を掲載します。

「妊娠・出産支援が抜けていた」

――NHKで特集された「卵子老化」に関する報道が取り沙汰され、女性たちの間で話題になっています。女性たちが妊娠・出産適齢期を知らされず過ごしてきたことに加え、妊娠・出産適齢期と、女性のキャリア形成期の重なりにも、原因がありそうです。この現状をどうとらえていますか。

その通りで、そこを教育すべしということが結論だと思っています。
そもそも論から言いますが、日本は今、大変な少子化です。合計特殊出生率が1.39で、3000年には日本人はいないという推計です。しかしこの危機感が、国民に共有されていないと感じています。直近で言えば、この40年間で、15歳から64歳の生産年齢人口がほぼ半分になります。経済成長にも打撃ですし、社会保障の“支え手”が、今の半分しかいない状況です。ちょうど私たちが養っていただく立場になる頃の話なので、他人事ではありません。

私の立ち上げた「少子化危機突破タスクフォース」に、人口学者に入っていただきました。そこで、統計学や人口学的に見て、「出生率が2.0あれば人口を維持できるが、2.0を切ると減少し始める」と言われたのです。

ではどうすればいいか。労働力確保について、外国人を一度に大量に入れるというのは難しく、直近の解決になりません。では子どもを産んでもらおうというのは、中長期的な話です。つまり目の前の労働力は、今、働いていない女性なのです。女性や高齢者層の労働力を確保する態勢を整えていかねばなりません。そのために、産み育てながら働くということを、両立させねばなりません。個々の女性の人生の話であるだけでなく、国の存続そのものの問題である、ということがお分かりいただけると思います。

――仕事と育児の両立支援政策はこれまでにも行われていますが、出生率は上がりません

 「結婚、妊娠、出産、育児」というステージがあります。今までの政策は、「出産、育児」への対策に集中していて、「結婚、妊娠」への対策が抜けていたからです。もちろん待機児童の解消や育児休業の充実は大切ですが、妊娠に至るまでの支援を新しく始めねばなりません。それが、安倍晋三首相の言う「少子化政策三本の矢」です。待機児童解消など子育て支援、仕事と家庭の両立、結婚・妊娠・出産の支援、の3つです。これまでの政策にはなかった「結婚・妊娠・出産の支援」が盛り込まれました。

女性手帳の真意は「女性の自律」

――この中に、問題となった「女性手帳」があったと思いますが、取り消されました。

 「女性手帳」という名称のものを配ることを決定したことはありません。検討途上では、名称の案にはさまざまなものがありました。本当にお伝えしたかったのは、「産む・産まない」の選択は個人の自由であり、決して押し付けるものではないということ。自分の体を知った上で、女性たちが選択できるように、情報提供しますということでした。その情報提供の対象は、男性・女性、両方です。またその手段・形式にも、色々なご意見がありますので、更なる検討チームを立ち上げて、ゆっくりと検討していきたいと思います。

かかりつけの「マイ産婦人科」創設

――「結婚・妊娠・出産の支援」は、他には?

一人ひとりの女性がかかりつけの産婦人科を持つ、「マイ産婦人科」という仕組みを作ります。日本では、女性が気軽に産婦人科に行ける雰囲気がなく、生理不順を放ったままでいたり、子宮筋腫を見逃してしまっていたり、などということが起こりがちです。自分の体に意識的になってもらうため、かかりつけ産婦人科医を持ってもらい、バースプランの相談にも乗ってもらいます。

また、現在は中絶が増加しています。結婚していても、仕事や経済面の問題で、中絶する人が多いといいます。しかしせっかく授かった命ですから、そういう方にもぜひ産んでもらい、養子縁組などの方法を紹介する形もあり得るかもしれません。望んでも授からない方にも、ぜひ子育ての喜びを感じて頂きたいと思っているので、スムーズに養子縁組できるような仕組みを考えるということもあり得るかもしれません。

また、教育費など経済的な理由で3人目を産むことをためらっている人もいるので、産めば生むほど楽になるという支援を考えています。

自治体支援を強化

――未婚率が年々上昇しているという点については?

 彼らは決して結婚したくないわけではありません。未婚の男女9割に結婚希望があるのです。結婚したら子どもは何人ほしいか、という問いには、「二人以上ほしい」という答えが最も多いです。これがかなえられれば、出生率は1.39から1.75にまで上がるのです。結婚しないのは、男女ともに経済的な不安定が理由です。これまでの長い不況の中で、例えば親のリストラ、パートナーの転職などに遭ったりした経験があると、自分自身が経済的に安定しないと結婚に踏み切れないと思う方もいるのでしょう。だから、若者の経済的な安定、雇用の発展が第一です。これについては、産業競争力会議で稲田大臣と私が、様々な対策を打ち出しているところです。

住まいの問題もあります。都会は土地も家賃も高く、子どものことを考えて広い家に引っ越したいと思っても、若い夫婦には難しいでしょう。そこに目を付けたのが福島県磐梯町です。町営の「若者応援住宅」では、2階建て、駐車場付きの新築一戸建てに3万5000円ぐらいで入居できます。子どもが生まれると、家賃は半額以下の1万5000円になり、生まれるごとに安くなります。待機児童解消も取り組みました。幼少中の全てにネイティブの英語教員を置き、7割の子どもが、中3までに英検準2級を取っています。この結果、磐梯町では出生率が毎年上がっています。こんなふうに、その地域に合った政策は、首長がよく知っています。だから、婚活やお見合いサポートでも、そういう地方自治体独自の取り組みを国が支援する形を考えています。

――産み育てながら、働くことへの支援は?

 仕事と育児を両立させるための制度は充実していますが、使われていないのです。なぜかというと、女性が周りに対して「迷惑じゃないかな」と思ってしまっていることがあると思います。先日、様々な職種の20代の未婚女性から話を聞いたのですが、「先輩が産休を取ったら、途端に年配の男性上司たちが、『困った困った。帰ってくるのかな。帰ってきたらどのポストに就けよう』と言っていた。私も結婚したら、会社の迷惑になるのかな」と話していました。打開策として、同じ苦労をしてきた女性が管理職に就く、という方法が考えられます。そういう女性を登用したり、部下が育休をとれるよう環境を整備したりした管理職を昇進させるような、思い切った改革ができるよう、企業に訴えていきます。

3年育休「いつでも戻れる」

――日本の多くは中小企業です。女性職員の出産を喜んでいても、規模の小さい事業所ほど、休まれたらすぐに次の職員を確保しないといけなります。女性職員が育休で戻ってくる頃には、居場所がないということも起こりがちだと思います。また、子どもが1歳半になるまで認められている育児休業を3歳まで延ばす「3年間抱っこし放題」の方針は、女性たちから批判的な意見が多いですが。

 最長3年ということであって、いつ戻ってもらってもよいのです。中小企業を支援するために、仕事と家庭の「両立支援助成金」制度により、職員の育休のために代替要員を確保した事業所に助成金を出しています。また、来年度以降、休業中にスキルが落ちないようなプログラムを実施した事業所には、新たな助成金を出します。また、育児等で離職し、再就職を希望する女性が中小企業等で職場実習を実施する場合には、女性本人に一日6000円を国が支給します。これは、スキルアップのための勉強代でも、ベビーシッター費用でも、何に使ってもらってもいいものです。

他にもたくさんアイディアはあるのですが、そのためには予算が必要です。国は他にもたくさんの問題を抱えています。その中で出産や育児への支援を充実させていくためには、国民の皆様がどれだけこの問題を自分事として考えて下さるか、またそれに対しての負担も考えて下さるか、ということがあります。皆様一人ひとりの今後の生活にかかってくる話なので、ぜひ真剣に考えてもらいたいと思います。