インタビュー

「乳幼児の摂食障害を知ってほしい」 (中)「食べる意欲」を育てる~田角勝昭和大小児科教授

――意欲がなければ、自分で食べるようにはならないんですね。

「食べる意欲が育つ」ことがとても大事です。本来は特別な配慮をしなくても育ちます。しかしながら、このような子どもの多くは、離乳食期にうまくいかなかった場合が多いです。離乳に未経験で一生懸命なお母さんは育児について丁寧に勉強します。厚労省は「授乳・離乳の支援ガイド」を出しており、育児書でもペースト状の離乳食から一口ずつ段階的に固形物に進むよう薦めています(下図)。離乳食の商品も前期、中期、後期というように、これに準じて作られています。

厚生労働省「授乳・離乳の支援ガイド」より

厚生労働省「授乳・離乳の支援ガイド」より

しかしながら、これには少し疑問があります。それは、この中に出てくるペースト状などの形態の離乳食は自分でつかめません。そして、食べさせてもらうことが多く、自分で食べる機会が少なく、自分で食べる意欲が育ちにくいことになります。そのためには手づかみできる物を離乳食とともに与える必要があります。手づかみできる固形食品には、赤ちゃん用のせんべいやボーロなどがあります。

ちょうど離乳食を開始するこの時期は自分から食べることを覚える時期であり、口を開けるだけになってはいけません。食べる意欲の育ちつつある子どもはティッシュペーパーやおもちゃなど、なんでも口に入れようとします。親は当然ティシュを口に入れては「ダメ」と教えますので、結果として「自分で食べてはいけない」ということを子どもは感じるかもしれません。このようなことから親が丁寧に見ているほど、おもちゃを手で口に持っていくなどの「自分で食べる練習」をするチャンスを失っている場合があります。

――どんな風に診察し、治療していくのでしょう。

年齢や基礎疾患によって対応は違いますが、まずは運動や知的発達を評価します。その上で摂食・嚥下の状態を見ます。すべての問題を踏まえた上で、問題の中心がどこにあるかを判断し、今後の方針を説明します。

以前、ほとんど食べようとしない水頭症が原因の脳性まひの1歳3か月のお子さんが受診されました。来院前に摂食・嚥下リハビリテーションなど、色々な工夫と努力をされていましたが、効果は得られなかったようです。その時には経管栄養で200mlの栄養剤を一日5回入れていて、来院時にはよく指しゃぶりをしていました。そこでたくさん食べる目標から、少しでも自分で楽しく食べるということを目標にしました。それまではペースト食をスプーンで食べさせてもらう経験のみでしたが、固形物を手で持たせて食べさせるようにしました。その結果、食べる意欲も出てきて、食べる量が増え、1か月弱で口から食べられるようになりました。

詳細を説明するには長くなりますので簡単にお伝えしましたが、機能障害のない子でも食べられないことがあります。上手に対応しないと長期にわたり、経管栄養が続くこともあります。うまく対応すると、長い間ほとんど食べられなかった子が、このように短期間で食べられるようになることもあります。このお子さんはちょうどいいタイミングで受診してくれたと思っています。

――意欲を育てる、とは具体的にどうするのですか? 摂食・嚥下のリハビリテーション訓練をするのでしょうか。

このように機能障害のない場合には、摂食・嚥下のリハビリはしません。むしろ害になります。「食事は楽しい」という経験を積んでもらうことが、最も重要です。訓練やリハビリを本人が楽しいと感じられれば良いのですが、子どもには難しいことです。子どもは楽しいことに対して意欲的に行動してくれるので、そこを生かしていきます。食べる楽しさや美味しさは口で感じているわけではなく、脳で判断しています。だから、食事を楽しく食べるには、味覚、嗅覚、触覚、視覚、聴覚などの五感を通して気持ちいいと感じることを養っていくことが必要です。そして私たちもそうですが、誰かに食べさせられるより、自分で食べるのが一番おいしく感じます。よっぽど気の合う人だったとしても、食べさせてもらうのは難しいです。熱心なお母さんほどここで頑張って色々工夫されるのですが、親が何をしたいかではなく、子どもをよく見て、食べたがっていることを見つけることが大切です。

――どんな治療経過をたどるのでしょう。

先ほどの子は1か月足らずで食べられるようになりました。子どもによりますが、私が診た中で最も長かった子は2年ぐらいかかりました。誤嚥がみられ機能的障害が強くて経管栄養の抜けない子もいます。摂食障害の子どもたちは、遅くとも小学校に行く前ぐらいに食べられるようになりますが、なるべく早く食べられるようにしたいものです。年齢が上がるにつれ自分の意思がしっかりし、「食べない」という気持ちを変えるのに苦労します。だから、早い時期に良いタイミングで対応を開始する必要があります。

食べられるようになった後は、決まったのものしか食べない偏食になる子がしばしばみられます。やはり小さい頃の影響が大きいのでしょうね。小さい頃に慣れ親しんだものから、新しいものへ向かうのに時間がかかります。ある子は、口から飲めるようになってからコーヒー味の牛乳を中心とした生活で、他の食物はほとんど食べず、ビタミン剤を補給しながら1年過ごしました。

(つづく)

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