熊田梨恵の独り言

アレルギー児の発作、「迷ったらエピペン打って」~埼玉・久喜市で医療、教育、消防連携の自主勉強会

 「エピペンを持っている子がアレルギー発作を起こした時は、ためらわないで打ってください。早く打って悪くなることはありません」――。済生会栗橋病院副院長の白髪宏司小児科部長らが、急性アレルギー反応の症状を緩和する注射薬「エピペン」の使い方を学校教職員らに伝えた。東京調布市で誤食した児童が急性アレルギー反応「アナフィラキシーショック」を起こして死亡した事故以降、学校や医療機関、消防では、子どもの食物アレルギーへの対応が課題になっている。これを受けて済生会栗橋病院で8月27日、小学校の教職員や地域の救急救命士、市民向けに食物アレルギーに関する公開講座が開かれた。小児科医と救急救命士の勉強会が基になって開かれた、医療、教育、消防の連携するめずらしい取り組みだ。

エピペンを太腿に打つ練習をする参加者

エピペンを太腿に打つ練習をする参加者

調布市の小5児童のアナフィラキシーショック死亡事故

東京都調布市の市立富士見台小学校で2012年12月、乳製品にアレルギーのある小5の女児が給食を食べた後に、急性アレルギー反応の「アナフィラキシーショック」を起こして死亡した。学校はアレルギーを把握しており、担当教員は当初、女児にチーズを抜いたチヂミを出したが、女児はおかわりの際にチーズの入ったものを食べた。アレルギー発作を起こしている女児に、担当教諭は女児が所持していたエピペン(※)を使うかどうか尋ねたが、女児は拒否。その後校長がエピペンを打ったが、女児は病院に搬送された3時間後に死亡した。この事件を契機に、学校や幼稚園、保育園などでは食物アレルギーを持つ子どもへの対応がより検討されるようになり、各地で勉強会などが開かれるようになった。

(※)エピペン・・・アナフィラキシーの症状を緩和する注射薬。症状を起こす可能性のある子どもに医師が処方する。アレルギーの原因となる食物を摂取したり、呼吸困難など呼吸器系の症状が現れた時に使用する。ペン形の注射薬で、太腿などに打って使う。いつでも対応できるよう、常に身近においておくことが大事。学校などで子どもに発作が起きた場合に、使用する人の順位をあらかじめ決めておくなどの対応が求められている。

白髪宏司済生会栗橋病院副院長・小児科部長

白髪宏司済生会栗橋病院副院長・小児科部長

 「どうする!?食物アナフィラキシー前後の対応~食物アレルギー児が普通にすごせるために~」をテーマに済生会栗橋病院が開いた市民講座には、久喜市立栗橋南小学校の教員や、地域で活動する救急救命士、子どもや家族ら約60人が参加した。白髪医師ら小児科医がアレルギーに関する知識や対応を講義し、学校と消防、医療機関の連携方法などを提案。エピペンの練習器具を使い、参加者は実際に打つ練習をした。

小児科医と救命士の勉強会がきっかけ

この公開講座が面白いのは、他地域で行われているような教育委員会主催のものではなく、地域の医療者や教職員、救急救命士らが自ら発案したという点だ。きっかけになったのは、白髪医師と地域の救急救命士らが開催している小児救急の勉強会「SQO(すくおー)会(Syouni…小児 QQ…救急 Operation…オペレーション)」。SQO会は、地域の小児救急のニーズが高まる一方で、小児医療について継続的に学ぶ機会がほとんどない救急救命士らの救急活動の質を向上させるため、救急救命士らが白髪医師に勉強会の講師を依頼して始まった。2012年2月から4か月に一度、症例検討を中心に開催している。これまでに、心肺停止やけいれん、ぜんそくなどをテーマに開かれ、病院の医師や看護師、薬剤師、事務職、栄養課、リハビリスタッフ、ドクターヘリチームのほか、診療所の医師や看護師など、毎回100人程度参加している。白髪医師は、「埼玉県内で小児救急に特化した勉強会はここだけ。彼らはよりよい救急活動をしたいという思いがありながら、学ぶ機会がなかった。勉強会での彼らの熱心さには毎回驚かされる。彼らから『勉強会での学習に従って処置し、搬送しました』と聞くと、顔の見える確かな地域連携を感じる」と話す。

7月の「食物アレルギー」をテーマにした勉強会には、栗橋南小学校の養護教諭の廣澤久仁子さんら学校職員が13人参加。廣澤さんはこの内容を他の職員にも知ってもらいたいと提案し、病院が一般向けの公開講座として行う形になった。当日は25人の教職員が参加。廣澤さんは、「本校にもエピペンを処方されている子どもがいる。全ての教員がいざという時に対応できるよう、研修しておくことが大切。どういう症状の時に、どのタイミングで打つのかを理解しておくことが大事だと思う」と話す。

白髪医師は公開講座の趣旨について、「調布のような事故がこの地域でも起きたとしたら、医療者は何をしていたんだということになる。私がエピペンを処方しているお子さんも地域に複数おられるし、前回の勉強会でも教職員や学校の栄養士さんがヒヤッとした経験があったことを聞いた。この講座で、まずそういう子どもが地域にいるという事実を皆で共有し、救急隊が子どもの存在を把握しておくことが大事だと知ること。学校教職員の方々には、誰がいつ打つのか、搬送の連絡ルートを作っておくことを考えてもらえたらと思う」と話した。

「大事なのは発症後のサポート体制」

白髪氏は調布の事故後に、「おかわり禁止」という方法で事故防止対策をする学校が増えていると述べ、子どもの行動や食べたいものを制限する方法に難色を示した。アレルギーの子どもの皿の色を変えるという防止策についても、周囲と違う対応が子どもの間で差別を生むこともあると、疑問を呈した。
「そういうやり方で本当にいいのか。私は違うと思う」と述べ、様々な場面で誤食は起こり得るとして、起こった場合のサポート体制を学校や消防、医療側で整えておくことが大事だと訴えた。

教職員や救急救命士、一般市民など約60人が参加

教職員や救急救命士、一般市民など約60人が参加

 小児科の金子裕貴医師は、地域の連携の在り方として、管轄する消防機関がアレルギーを持つ子どもを把握するために、学校と情報共有しておくことが大切と強調。消防側が子どもの学校や住まいを把握していれば、あらかじめ搬送先などを考えておけるとした。実際にアナフィラキシーが起こった場合のシミュレーションを学校内で行い、担任や養護教諭など、エピペンを打つ人と優先順位を決めておくべきとした。

エピペンはいつ、どんな症状の時?

金子氏はエピペンを使うタイミングについて、日本小児アレルギー学会が示した状態(下図)が一つでもあればすぐにエピペンを使うべきとした。

(学会HPより)

(学会HPより)

 白髪氏は「エピペンについて勉強して理解していても、実際に打てるかどうかは違う」と述べ、実際にエピペン投与が必要な場面になっても、「注射」という慣れない行為に躊躇して打てない人が多いことを指摘。「その子が危険な状態に陥いったことがあり、今後もそうなる可能性があるから医師は処方している。エピペンを早く打ち過ぎて悪くなることはない。どうしようかと迷ったら、悩まずに打ってほしい」と強調。打たなかったり、打つタイミングが遅くなると、調布の事故のように死亡する可能性があるとした。

講義後、参加者はエピペンの練習器具を使って太腿などに打つ練習をした。白髪医師は「『むにゅっ』と打つのではなく『ガツン』という感じです」と、ペン先部分を押し付けるのではなく、勢いよく強く打つよう呼びかけた。

「打っても亡くならないけど、打たなかったら亡くなる」

意見交換で食物アレルギーを持つ子どもの母親は、エピペンを使うことにためらってしまう気持ちを涙ながらに吐露した。「今日の話を聞いて、『打って亡くなる』ことはないけど、 『打たなかったら亡くなる』ことはあるんだと自分で思えた。エピペンは一瞬痛いのかもしれないけど、それで命が助かるのだと分かった。何かあった時のために、家で練習しておくのが一番だと思う。今は幼稚園の先生たちもアレルギーの子どもが多くて気を張って大変で、申し訳ないという気持ちがある。打って助かるなら、先生たちには子どもが嫌がっても打ってほしいと思う。そこで何があったからと言って、先生たちを責めるというのではない。こういうことを小中学校の先生にも知ってもらいたいし、一度エピペンを握っていたら違うと思うから参加してもらいたい。私たちからどうやったら働きかけられるのか、市役所にでも行ったらいいのだろうか。先生たちの負担は増えるけど、日中子どもと一緒にいる母の私も勉強して、精神的に強くならなければいけないと思う」

地域の母親と子どもも参加

地域の母親と子どもも参加

 この発言を受けて白髪医師は、「打てないお母さんが多いことを学んだ」と述べ、母親がエピペンを打たなければいけない時には、周囲の医療者や教職員などがサポートして打てるようにする体制を整えることが大事だと話した。

参加した母親からの「子どもが初めてアレルギー発作を起こした場合はどうしたらいいのか」という質問に対し、金子氏は「アナフィラキシーは見てすぐに『ま ずい』と分かるので、速やかに救急車を呼ぶか、近くに病院があれば駆け込んでほしい」と答えた。その間は、子どもの体を寝かせた状態で脚を上げておく体位を取ってもらいたいとした。

講座終了後、栗橋南小学校の金子孝雄校長は、「昨年、児童のアレルギー発作に対応したことがあり、林間学校などもあるので、担任としても不安があった。教育委員会からも専門の機関から話を聞くようにと言われ、研修を考えていたところだったので、このような会はありがたかった。今回の講義を聞いて、エピペンを打って命を救えるなら迷わず使用しようと思った。こういう機会があったらまた受けたい」と話した。

白髪氏は、「お母さんが泣きながら訴えてくれた内容が、とても大事だと思った。あんなにも怖いと思っているということを、他の人たちはなかなか分からないと思う。食物アレルギーの問題が、当事者や家族の問題にされてしまっていることで、家族の負担が大 きくなっている。調布で亡くなったお子さんの命を無駄にしてはいけない。こうして現場からやっていくことで解決できることがある。今日の話を基に、学校と消防も連携 していってもらえたら」と話した。