インタビュー

「乳幼児の摂食障害を知ってほしい」(上)食べることを拒否する子どもとは?~田角勝昭和大小児科教授

田角勝昭和大学医学部小児科教授

田角勝昭和大学医学部小児科教授

「胃ろう」がクローズアップされたことで高齢者の摂食・嚥下の問題はよく取り上げられるようになったが、乳幼児の摂食障害は見落とされがちだ。数が少ないために医療者の間でも認識は広がっておらず、食べることを拒否する子どもを育てる親の苦労は壮絶だ。育ち盛りの子どもがなぜ食べることを拒むのか。こうした子どもたちを多く見てきた昭和大学医学部小児科の田角勝(たつの・まさる)教授に聞いた。(熊田梨恵)

――子どもの摂食・嚥下障害については、ほとんど知られていないと思います。基本的な部分から伺いますが、どういう状態なのでしょうか。

口から食べ物を摂り、口の中で咀嚼して飲み込み、咽頭・食道を通って胃まで運ぶことを摂食・嚥下機能と呼びます。そして様々な消化器官が連携して食べ物を消化し、栄養を摂りこみます。この過程が正常に機能しない状態を摂食・嚥下障害と言います。そして機能障害がないにもかかわらず、食物を食べない摂食障害も乳幼児期にみられます。私たちは普段、何げなく食べたり飲んだりしていますが、このすべての機能を生まれ持っているわけではありません。乳幼児期に哺乳、離乳食、幼児食と段階を経て学習する機能です。このため、何らかの疾患や心理的な影響によって学習できなければ、どの子どもにも起こる可能性があります。一般的には、以下のような障害によって発症すると言われています。

乳幼児が摂食障害を発症する可能性のある疾患・障害(「つばめの会」パンフレットより)

乳幼児が摂食障害を発症する可能性のある疾患・障害(「つばめの会」パンフレットより)

外来を受診される理由の多くは「噛まない」「丸呑みする」「舌が出る」といった口腔の機能的な問題から、「むせる」「誤嚥する」「口から食べない」などの嚥下機能や心理的などさまざまな原因から来院されます。

――数えにくいとは思いますが、こういう子どもたちは国内に何人ぐらいいるのでしょうか。また、先生は年間に何人ぐらい診ておられるのですか?

最もしっかりしたデータの1つに、文部科学省の出しているものがあります。それによりますと特別支援学校の小中学校において経管栄養(経鼻、胃ろう、腸ろう、口腔ネラトン法、IVH中心静脈栄養)が、5192人います。そのうち経鼻経管栄養と胃ろうで2946人です。通常級・特別支援学級では209人です。この中に乳幼児は入っていませんが、同じ程度の頻度と考えられます。この多くは摂食・嚥下機能障害を伴いますが、摂食・嚥下機能に大きな問題がないけれど食べられない子どもの頻度は不明です。小中学生より乳幼児期に多く、数百人程度でしょうか。私の所では、乳児期の摂食障害を年間に10数人ぐらい診ています。

――病気や障害など、体の機能的なことが原因で「食べられない」というのは分かる気がします。ただ、私が先日お話を聞いたお母さんのお子さんは、小児科医に「悪いところはどこもない」と言われ、体調も問題ないのに、まったく食べようとしない、食べることを頑として拒否するという状態でした。大人が減量目的に食事を減らすことは分かりますが、乳幼児が「食べることを拒否する」ということがよく分かりません。それでは栄養が摂れなくて命に危険が及ぶと思うのですが。

子どもによって状況は様々ですが、共通しているのは「食べる意欲が育たなかった」ということです。親の側に立てばうまく食べさせることができなくて、頑張ったけど食べなかった。子どもの側に立てば食べる経験が上手にできなくて、食べようとする意欲が育たなかった、育ててもらえなかったということです。そのような子どもの多くは、ほぼ基礎疾患があります。基礎疾患に加えて、合併する呼吸障害や循環障害や感染症など全身状態が関わります。このような全身状態は、私たち大人も同じで、呼吸が苦しく体調が悪いと食べる気にならないということを想像できると思います。そのような時に無理に食べると、嫌な経験になります。だから、親の食べさせ方が悪くなくても、体調が悪くなくても空腹でないなど、タイミングが合わなければそうなります。そのように食べることを「嫌だ」と思った経験を積んでいる子が多いですね。

――そういう子は、栄養不足になって命に危険が及ぶ状態になっても食べないままなのでしょうか?

空腹の状態にして食物を準備しておいても、食べてくれないことが多いです。食べる意欲が育っていなければ、放っておいても食べません。それは食べるものがなく空腹状態の時に、「イモムシは高たんぱく高栄養だから」と言われても食べられないことと似ています。食べるためには気持ちが大切です。そのため、食べる意欲を育てることに気を配ります。

(つづく)

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